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2017年2月27日月曜日

『共同体の規則』について Metso, The Serekh Texts

  • Sarianna Metso, The Serekh Texts (Library of Second Temple Studies 62; Companion to the Qumran Scrolls 9; New York: T&T Clark, 2007).
The Serekh Texts (Companion to the Qumran Scrolls (T&t Clark))The Serekh Texts (Companion to the Qumran Scrolls (T&t Clark))
Sarianna Metso

T&T Clark Ltd 2007-06-24
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本書は『共同体の規則(セレク・ハヤハド)』のテクストの原典と翻訳に加えて、最新の研究成果を反映した概説書である。著者はまず『共同体の規則』の重要性として、実践や教えに関するその内容から、同書を持っていた集団がヨセフスが記しているエッセネ派であったと考えられることを指摘している。特に『共同体の規則』の最も保存状態のいい写本である1QSは、クムラン=エッセネ派説を維持する最良の証言だと言える。

『共同体の規則』にはさまざまなテクストが組み込まれている。たとえば、宇宙を善悪二元論で理解する「二つの霊の論文」(1QS 3.13-IV.26)、入信の取り決めなどを含む「共同生活の規則」(1QS 5.1-6.23)、そして聖書の引用(イザ40:3)を含む、エルサレム神殿の代わりとしてのクムラン共同体の立ち位置を言明する「初期規則のマニフェスト」(1QS 8.1-9.26a)などである。

『共同体の規則』の写本としては、1QSの他に、4QSa-j、5Q11、11Q29などがある。これらの写本を検証した結果、『共同体の規則』には長い版(1QS)と短い版(4QSb、4QSd)とが存在していることが分かった。二つの版が存在する理由としては、複数の文学的伝承があったから(G. Vermes)、あるいはツァドク派によって長い版が編纂され短い版ができたから(C. Hempel)、などと説明される。いずれにせよ、多くの研究者は長い版である1QSの方が古いテクストだと考えてきた(P.S. Alexander)。

これに対し、著者はむしろ第四洞窟で発見された短い版の方が古く、初期の形を保存しており、1QSはその短い版が後代に編集された結果出来上がったものだと主張した。その理由は、第一に、1QSにある聖書引用が第四洞窟の写本にはないこと、そして第二に、1QSにはあるが第四洞窟の写本にはないさまざまな編集要素があることである。『共同体の規則』のさまざまな版が存在するということは、クムランの共同体が新しい拡張版(1QS)を持っているときでも、古い版(4QSb、4QSd)を繰り返し筆写していたことを示している。

著者は『共同体の規則』に書かれていることがエッセネ派的であることは認めつつも、細部においてヨセフス『ユダヤ戦記』(2.137-139)のそれとは異なっていることを指摘している。

『共同体の規則』には聖書との関連性を伺わせる箇所がたくさんあるが、明確な聖書引用は、1QS 5.15(出23:7)、1QS 5.17(イザ2:22)、そして1QS 8.14(イザ40:3)の三か所のみである。第四洞窟の写本に聖書引用がなく、1QSに集中していることから、著者は1QSは後代の編集版であり、聖書引用を付け加えることで共同体の自己理解を強めようとしたのだと考えている。また荒野の預言者に関するイザ40:3の引用から、新約聖書との比較もなされている。

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