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2017年2月13日月曜日

ミシュナーとトセフタ Hauptman, Rereading the Mishnah

  • Judith Hauptman, Rereading the Mishnah: A New Approach to Ancient Jewish Texts (Texte und Studien zum Antiken Judentum 109; Tübingen: Mohr Siebeck, 2005).
Rereading the Mishnah: A New Approach to Ancient Jewish Texts (Texts & Studies in Ancient Judaism)Rereading the Mishnah: A New Approach to Ancient Jewish Texts (Texts & Studies in Ancient Judaism)
Judith Hauptman

Mohr Siebeck 2005-09
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本書は、『ミシュナー』と『トセフタ』という二つのラビ文学の関係性の再考を問う問題作である。両者の関係性についての定説は、Avraham GoldbergやJacob Neusnerが考えるように、『ミシュナー』が『トセフタ』に先行するというものである。Goldbergは、『トセフタ』とは『ミシュナー』の注解だと考え、Neusnerは、『トセフタ』は『ミシュナー』とは別の共同体によって作成された文書だと考えている。いずれも、『トセフタ』とは、『ミシュナー』に対する付加や補遺にすぎないと見なしているのである。

この定説に対し、やや慎重な意見を取るShamma Friedman, David Halivni, Günter Stembergerのような研究者もいる。Friedmanは、しばしば『トセフタ』には『ミシュナー』よりも古いと思われる素材が含まれており、『ミシュナー』編者が『トセフタ』から削った素材もあると述べている。Stembergerはこれを受けて、『トセフタ』には、これまで考えられていた以上にオリジナルな内容が含まれているので、両者の関係は新約聖書の共観福音書の問題とも似ている、と指摘している。

本書の著者であるHauptmanは、こうした修正案をさらに徹底させ、定説とは反対に、『トセフタ』の方が『ミシュナー』に先行すると主張した。さらに、『トセフタ』は明らかに『ミシュナー』の記述を引用しつつそれに注解を加えているような箇所があるので、そうした箇所については、『トセフタ』は現在の文書としての『ミシュナー』ではなく、(新約のQ文書のような)「原ミシュナー」に注解を加えているのだと説明した。

著者がこのように主張する根拠の一つが、『ミシュナー』と『トセフタ』とで共通する記述において、『ミシュナー』の方がより「凝縮されて(condensed)」いる点である。言い換えれば、似た記述に関して『トセフタ』の方が記述が長いのである。そして、もし本当に『トセフタ』が『ミシュナー』への注解なのであれば、『トセフタ』が正確に『ミシュナー』を引用しないのは奇妙だと主張する。

しかしながら、古代における引用がソースを正確に反映させるかと言えば、必ずしもそうではないし、そもそも著者自身がしばしば矛盾したことを述べていることもあって、学界の評価としては、本書の主張は定説の再考のための触媒にはなるが、その主張は受け入れられないというところのようである。

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